最初のARTPECシステムオンチップ(SoC)を搭載した製品が発売されたのは、1999年の晩秋のことでした。そして今、長年の経験、知識、そして高品質な技術への情熱を基に、SoCは9世代目になっています。AxisのTechnologies部門のSenior Expert EngineerのStefan Lundberg氏とともに、ARTPECの20年以上の歩みを振り返り、重要な洞察と開発について話し合いました。
Axisカメラの秘密
ARTPEC SoCは、画質、分析機能、圧縮性能などの重要な機能の基礎を提供するため、弊社の製品にとって不可欠なコンポーネントです。これが、弊社の多くの先進的なネットワークデバイスの「秘密」なのです。ARTPECの各世代の設計プロセスにおいて、弊社は繰り返し直面する重要な課題に対処しなければなりませんでした: それは性能と機能対コストと消費電力のトレードオフです。ARTPECの各世代は、ピクセルの処理性能だけでなく、重要な機能の改善や新規追加も行いました。新しいARTPEC SoCが登場するたびに、トランジスタ数はほぼ倍増していますが、サイズ、消費電力、コストはほとんど変わりません。
革新的なSoC
「弊社のARTPEC SoCは、弊社と業界にとって小さな革命でした。弊社は車輪を発明した訳ではありませんが、ビデオを転送する方法に革命を起こし、多くの柔軟性と斬新なアプリケーションの機会を増やしました。ARTPECの発明により、Axis Forensic Wide Dynamic Range (WDR)、Axis Zipstreamデータ圧縮技術、エッジで動作するAIに基づく強力な分析機能など、全く新しい技術を開発することができました。
ARTPECの発明により、全く新しい技術を開発することが可能になりました
これらの技術は、SoC無しでは市場に投入することはできませんでしたが、一夜にして実現した訳ではありません。それは、弊社のARTPECの旅の礎となる、長い時間をかけた多くの功績の結果であり、少しずつ業界を変えていく小さなターニングポイントでした。例えば、ARTPEC-1は、完全なビデオ性能を備えた初のコスト効率の高いネットワークカメラを実現しました。ARTPEC-3では、当時のアナログビデオカメラよりも高解像度の最高品質のビデオを提供することができました。 ARTPEC-5では、WDRソリューションを改善し、Forensic Captureと呼ぶものを実現しました。Forensic Captureは、単なる美しさよりも視認性とディテールを優先させることで、当時の競合ソリューションとは一線を画していました。直射日光の当たる大きなガラス張りの店舗など、光の条件が厳しい場所でもビデオカメラを効果的に使用できるようになったのは、この時が初めてです。以来、この方法は業界標準となっています。ARTPEC-5が可能にしたもう一つの画期的な技術革新は、Zipstream圧縮技術で、重要な細部をフル解像度で保存しながら、帯域幅とストレージ要件を大幅に削減します。
初のARTPEC SoCとイノベーションの新しい方法
世界初のネットワークカメラである弊社のAXIS Neteye 200カメラにはARTPEC SoCが搭載されていませんでしたが、すぐに、市販のSoCでは今後弊社が望むレベルの性能を実現できないことがわかりました。この気づきが、弊社が最初にARTPEC SoCの開発に着手するきっかけとなりました。1996年晩秋から開発に着手し、1999年11月のComdexでARTPECベースの最初の製品AXIS 2100を発表しました。
「当時は予想していなかったことですが、ARTPECは、限られたリソースで数種類の製品から、後に監視業界に革命を起こすような完全なポートフォリオまで、提供する製品を拡大することを可能にする中核的な要素になったのです。
もちろん、革命は一夜にして起こるものではありません。それはプロセスでした。SoCの各世代が新たな主要目標に取り組んでおり、複雑さが増すにつれて、弊社は常に作業方法を改革しなければなりませんでした。
「弊社が今日あるのは、イノベーションプロセスにどう取り組んだかが重要な要因の一つです。コアテクノロジー部門は、幾つかの分野の問題や改善に取り組む独立したグループに分かれています。弊社は、彼らが将来最も大きな可能性を秘めると考える分野を自由に探求し、集中できるようにしました。各チームに与えられた唯一の責任は、次のARTPEC世代のために何かを提供することでした。他の市場からインスピレーションを得たり、ある問題に一緒に取り組んだりすることで、弊社の業界における多くの問題が解決しました」とLundberg氏は説明します。
ARTPECの基本理念
ARTPEC-1専用の画像と圧縮ハードウェアのおかげで、大量のデバイスを必要とせずに、インターネットを使ってカメラから遠隔地に直接ビデオをストリーミングすることができました。ユーザーはウェブブラウザをカメラに組み込まれたウェブサーバーに向けるだけで済み、映像の転送には標準的なITプロトコルを使用しました。インターネットは新しく、他のビデオ転送ソリューションは専用のビデオケーブルを使っていたので、これは画期的なことでした。
ARTPEC-1を使用した最初のネットワークカメラであるAXIS 2100は、現在では組み込みLinuxとして知られる全く新しい組み込みオペレーティングシステムをベースとした内部ソフトウェアを搭載した画期的なカメラでした。製品ポートフォリオの迅速かつ効率的な開発を可能にするため、弊社は独自のRTOS(リアルタイムオペレーティングシステム)を廃止し、μClinuxを使用することを選択しました。実際、AXIS 2100は、組み込みLinuxを使用した世界初の量産製品でした。今思えば、これ以上の決断はなかったと思います。フラッシュベースのファイルシステムなど、今では標準となったあらゆる要素を実装するために多くの余分な作業が必要だったとしても、弊社はLinuxとともに成長することができました。
2003年に発売されたARTPEC-2では、パフォーマンスが大幅に向上し、MPEGと呼ばれるより効率的なビデオエンコーディング技術の実験も開始しました。
ARTPEC-3はその4年後に完成し、クラス最高のスループットを持つIPビデオへの扉を開きました。弊社は初めて、当時最高のビデオエンコーダー(H.264/AVC)とその他のシステムを1つのSoCに統合し、高品質のHDTV解像度を実現しました。
2011年にはARTPEC-4を発売し、残る2つの課題である限られたダイナミックレンジと光感度を解決する技術を実現しました。Lightfinderというソリューションで、初のプログレッシブスキャンカメラを発表しました。それは当時のインターレーススキャンのアナログカメラを大きく凌駕していました。ARTPEC-4はまた、動作が良好で広く要望されていた新しいワイドダイナミックレンジ(WDR)ソリューションも支えました。2013年、弊社はARTPEC-5の開発により、Forensic Capture WDRというソリューションでWDR技術をさらに向上させることができました。
第6世代のARTPECは2017年に発売されました。これは新たなレベルのセキュリティを追加し、2年後のARTPEC-7リリースへの道を開きました。
ARTPEC-7により、署名付きファームウェアやセキュアブートなど、Axisカメラのセキュリティ機能が強化されました。これは、Axis Lightfinder 2.0やForensic WDRを含む、困難な光条件に対するAxisの全ての特徴的な技術の改良の基礎となり、IR照明の範囲を拡大しました。それはまた、H.264とH.265のコーデックを選択でき、オブジェクト分類分析のためのリアルタイム検出エンジンを備えています。
ARTPEC-8は、何よりもまず、AIに基づく強力な分析機能アプリケーションをサポートするために設計されました。それはAXIS Object Analyticsの基盤となり、パートナーによるカスタムメイドのアプリケーションを含む、他のAIベースの分析機能への扉を開きました。
ARTPEC-9 - 最新の開発状況
「1999年から現在までの進歩を説明する最も良い方法は、最初のARTPEC SoCと最新のSoCを直接比較することです」とLundberg氏は言います。「センサーとネットワーク間のピクセルの主な流れはどちらのタイプも同じですが、ARTPEC-1は画像配信のみをサポートし、柔軟性を提供しませんでした。相違点を文脈の中で考えるということは、ARTPEC-8は最初のSoCの100倍以上の性能を提供しながら、サイズと価格は同程度で、ARTPEC-9は同じ方向を向き続けていることを意味します」
ARTPEC-9は、次にあげる前世代の自社設計SoCの特徴である優れた機能と性能に磨きをかけています: それは低ビットレート、AIを活用した分析、優れた画像処理、内蔵の サイバーセキュリティです。また、Alliance for Open Mediaによるオープンソースのビデオエンコーディング規格であるAV1も導入しています。AV1のサポートと強化された画像処理により、ARTPEC-9は妥協の無いディテールと明瞭さ、クラス最高のビットレートを備えた高品質のビデオを提供します。Axis Zipstreamと組み合わせることで、AV1はオンプレミスとクラウドの両方で手間なく映像を扱えることを確実にします。さらに、ARTPEC-9は、物体をより早く検出し、イベントをより正確に分析する高度な分析機能アプリケーションを強化します。
ARTPECの未来
「これまでの弊社の進歩を振り返ってみると、この数年で最も進化したのは画質と、AIによる分析を含む分析能力です。どちらも監視カメラ業界に変革をもたらすものであり、今後もそうあり続けるでしょう」とLundberg氏は言います。
ARTPEC SoC、そしてそれを自社で設計し、製造を管理しているという事実が、現在そして将来のお客様のニーズを満たす革新的な製品を生み出す基盤となっています。ARTPECとともに歩むこれからの20年がどのような発展を遂げるのか、予測することは難しいし、想像することさえできませんが、弊社はその可能性に胸を躍らせています。